不育症は妊娠後に胎児が育たず、赤ちゃんをさずかることができないことをいいます。一般的には2回以上の流産、死産、早期新生児死亡(生後1週間以内の死亡)があれば不育症と診断し、原因を調べます。また、1人正常に出産したあとに2人目、3人目が流産や死産になった場合にも、続発性不育症として検査や治療を行います。
胎児に染色体異常や形態異常のない妊娠10週以降の流産、死産、重症の妊娠高血圧症候群によるIUGR(子宮内胎児発育遅延)は1回であっても、不育症に準じて検査を行うことになっています。
しかし、原因が突き止められない場合も多く、この場合は、胎児の染色体異常による流産がたまたま繰り返された運の悪いケースとも考えられます。
不育症の原因は非常に多岐にわたるため、検査もまた広範囲になります。当院では、院長が不育症外来と遺伝外来を担当しており、厚生労働省不育症研究班が提示する検査項目に依拠して検査を行います。
なお、一次スクリーニング検査の多くは保険適応になりますが、自己負担となる検査もあります。詳細については診察時にご説明します。
不育症一次スクリーニング |
- 子宮形態検査(子宮の形を検査します)
子宮卵管造影検査(HSG)
Sonohysterography(子宮内に水を入れて超音波検査をします)
二次元、三次元経膣超音波検査もスクリーニングとして利用できる
- 内分泌検査(甲状腺ホルモンや糖尿病をスクリーニングします)
甲状腺機能 FreeT4、TSH
糖尿病検査 血糖値、HbA1c
- 夫婦染色体検査(夫婦で染色体に構造的な異常がないかどうか血液で調べます)
- 抗リン脂質抗体(血栓や流産のリスクとなる抗リン脂質抗体を調べます)
抗カルジオリピンβ2グリコプロテインⅠ複合体抗体
抗カルジオリピンIgG抗体
抗カルジオリピンIgM抗体
ループスアンチコアグラント
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選択的検査 |
(一時スクリーニングほど明確ではありませんが、不育症との関連性が示唆されている検査です)
- 抗リン脂質抗体
抗PEIgG抗体、抗PEIgM抗体
- 血栓性素因スクリーニング(凝固因子検査)
第Ⅻ因子活性
プロテインS活性もしくは抗原
プロテインC活性もしくは抗原
APTT
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研究的段階の検査(一部のみ掲載) |
- 抗リン脂質抗体
抗PSIgG抗体、抗PSIgM抗体
- 自己抗体
抗核抗体
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出典:「厚労研究班の研究成果を基とした不育症管理に関する提言/2014」一部改変
不育症の主な原因には内分泌異常(甲状腺機能異常、糖尿病)、子宮形態異常(子宮奇形、子宮筋腫)、免疫学的異常(自己免疫疾患)、染色体異常などがあります。
なかには現在行われている検査では原因がわからないケースもあります。原因不明の中には、不育症となる原因がない場合も含まれ、実際、流産を2回ないしは3回繰り返したあとで出産に至ったというご夫婦も少なからずいます。
なお、不育症の原因としてとくに重要なのは、自己免疫疾患および、ご夫婦のどちらかの染色体異常が原因となっている場合です。
出典:「厚労研究班の研究成果を基とした不育症管理に関する提言/2014」
外界から侵入する異物を排除しようとする免疫反応(抗原抗体反応)は、本来は体を守る働きをしています。しかし、自己免疫疾患といって、ときに自分の体内にある物質に対して抗体(免疫)を作ってしまい、いろいろな不都合が起こることがあります。
抗リン脂質抗体症候群・血液凝固異常
不育症につながる自己抗体として重要なのが、抗リン脂質抗体です。抗リン脂質抗体症候群は不育症の原因の約10%を占めるといわれています。また、最近では血液凝固異常が不育症の原因になるとわかり、血液凝固因子を調べるようになっています。
これらの病気では、血液凝固反応が活発になり、胎盤の血液の中に血栓が多く作られるため、胎盤機能が低下するといわれています。このため、少量のアスピリンを用いる低用量アスピリン療法、低用量アスピリンとヘパリンの併用療法、ヘパリン単独療法など、血栓を作らない治療が行われます。
ヘパリン注射については、当院では通院しないで済む自宅での自己注射を指導しております。ご希望の方には診察時に詳しく説明いたします。
ときにご夫婦のどちらかがもつ染色体異常が原因となっている場合があります。ある調査では、2回流産を繰り返したご夫婦の約5%は、どちらかに染色体異常があるとしています。
染色体異常の保因者とは
染色体は両親から半数ずつをもらい受けますが、数や形、構造に異常が起こることがあり、保因者(キャリアといいます)といって、表面に出ない隠れた染色体異常を持つ人は大勢います。
大部分の人は健康上の問題はなく、保因者であることを知らないまま生活をしています。ただし、ご夫婦のどちらかが保因者の場合、受精=妊娠の際にその不都合が表れて、受精卵に異常が起こり、流産の原因になることがあります。
流産の原因となるのは
染色体異常はダウン症候群などの数の異常と、転座や部分欠失のような構造異常に分けられ、流産の原因となるのは相互転座、ロバートソン型転座など、構造異常があるケースです。
血液による染色体検査
保因者かどうか、流産しやすいかどうかなどは、血液検査による染色体検査によってわかります。しかし、現時点では、残念ながら、染色体異常そのものの治療や、流産を予防する治療法はありません。
不育症の場合、体外受精あるいは顕微授精によって得られた受精卵を、胚移植(子宮に戻すこと)する前に遺伝子解析することで、流産を回避できる場合があります。
このように、受精卵が着床して妊娠する以前に、 受精卵の染色体-遺伝子の解析を行うことを、「受精卵の着床前診断(PGD)」といいます。
女性の年齢が高くなると、体外受精・顕微授精の成功率は低くなってしまいます。最大の原因は、卵子の老化による受精卵の染色体異常の増加といわれています。
日本の場合、これまで着床前診断の対象は、重い遺伝病や、夫婦のどちらかに構造異常のある染色体異常があって、流産を繰り返す悲劇を避けるために実施されてきましたが、平成26年11月、体外受精で3回以上着床しなかった方や、流産を2回以上経験した方などに対象を広げて行う、着床前スクリーニング(PGSともいいます)の実施計画案がまとまりました(日本産科婦人科学会)。
この解析により、染色体数に異常のない受精卵を母体に戻し、流産率や出生率などの妊娠予後が改善されるか、結果が待たれるところです。