一般不妊治療・体外受精・顕微授精 西山産婦人科不妊治療センター

院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

NEW INFOMATION OF INFERTILITY

クリニック便り

2012年秋号

テーマ ご夫婦が仲良く治療を続けるために… PARTⅡ 「子宮の力」 -受精卵を着床させる力を活性化させましょう-

本年3月に春号をアップしてから早5カ月、新しいクリニック便りを待ってくださる皆様には、すっかりご無沙汰をしてしまいました。 暦の上では立秋を過ぎ(本年は8月7日)、夜半の虫の声に少しは秋を感じていますが、まだ夏の暑さの残る今日この頃です。日中の熱中症対策も当分続きそうな気配ですね。 体調のお健やかでありますようにとお祈り申し上げます。 さて、前号では、男性不任を通してご夫婦が抱える不安や悩みをQ&A形式でお話しさせていただきました。今回の内容は予告に提示させていただいた卵巣の若返り、卵の質を上げるには、アンチエイジングなどお話しする前に女性の体についてすこし前置きのお話をし、次なる項目につなげたいと思っています。

さて、最近、マスコミによく登場するのが、「妊娠力」という言葉です。 「婚カツ」という言葉から派生した「妊カツ」という表現もよく見かけます。 妊娠力とはその名前の通り、妊娠する力です。女性にとっての妊娠力には、第一に「卵巣の力」…受精能のある成熟卵子を排卵する力と同時に、「子宮の力」…受精卵を受け入れ着床させる力です。 卵巣から排出された卵子は年齢によって質も老化し、いろいろな問題もありますが医学の発展とともに受精を助ける治療法もタイミング法、AIH、体外受精・顕微授精などと進化しています。次に、これらの治療で受精したら、子宮内膜への着床!です。このハードルをクリアすると妊娠が成立するので受精卵のベッド=子宮内膜をベストコンディションに整えることはとても重要です。 今号では、子宮という臓器から「子宮の力」とは何か、および「子宮の力を高める方法」について考えてまいります。繰り返しますが、卵巣で作られる質の良い卵子がベースとなりますので、卵子の質については次の機会にお話をさせていただきます。

子宮の力とは…
子宮は精子の通り道。精子が移動しやすい「子宮の力」が必要です

通常の性行為で腟内に射精された精子は、子宮の入り口に当たる頸管からその奥の子宮体部の中(子宮腔:しきゅうくう)を通り、さらに卵管へと移動します。AIHの場合、精子は子宮腔へ直接届けられるので、卵管への距離は短くなります。いずれにしても、精子が卵管に早く到着し、卵子との受精にチャレンジできるように、「精子が移動しやすいこと」が、子宮に期待したい力です。

頸管粘液が精子の移動を助けます

排卵期が近づくと、頸管粘液は分泌量が増え、粘り気が減って水のように透明になって、精子の移動を助けます。排卵期の頸管粘液の分泌量や性状は、とても大切な子宮の力なのです。頸管粘液の変化にはホルモンの働きが関係しています。

抗精子抗体がないことも大切です

「抗精子抗体」とは、精子の動きを止めてしまう抗体のことです。子宮頸管や卵管に抗精子抗体があると、精子が子宮の中へ進入できない、卵管で受精できないなどの原因になります。このため、フーナーテストの結果がよくない場合には、抗精子抗体がないかを調べます。

子宮は受精卵が着床するベッドです

タイミング法やAIHでは、卵管に到達した精子は自力で卵子に侵入し受精します。受精卵は発育しながら卵管から子宮へ移動し、子宮内膜にもぐりこむように着床します。体外受精・顕微授精では体外で受精を助けてもらい、受精卵となったことを確認後、子宮へと戻されます(胚移植)。どちらの場合も、受精卵が着床しやすいように「子宮内膜が十分に柔らかく厚いベッドになっている」ことが、重要な子宮の力です。

ホルモンが子宮内膜を厚くします

子宮内膜が受精卵の受け入れ態勢を整えるのは、ホルモンの力です。このため、ホルモン検査は欠かせません。とくに子宮内膜を厚くする働きをもつエストロゲンや子宮内膜を分泌期へと変化させて着床の準備を行うプロゲステロンの働きが重要です。

受精卵に着床する力があることも大切です

タイミング療法やAIHではできませんが、体外受精・顕微授精では受精を確認することができます。何度か体外受精・顕微授精を行っても着床しない場合、受精卵あるいは卵子や精子に何か着床を邪魔する原因が隠れている可能性も否定できません。可能な範囲で、原因の有無を調べることがあります。

子宮にトラブルがないことも大切です

子宮筋腫や子宮奇形などのトラブルが着床を邪魔していることがあります。不妊症の基本検査として、超音波検査や子宮卵管造影検査で子宮にトラブルがないかを調べることは、子宮の力を知るために欠かせない検査です。

子宮は受精卵を育てる保育器です

子宮内膜に着床した受精卵は、子宮の血管を流れる血液から栄養や酸素をもらいながら、胎児、胎児付属物、胎盤へと分化していきます。子宮は受精卵を育てる保育器なわけですね。ですから、子宮や胎盤の血液の流れがよいことも、子宮の力のひとつなのです。

子宮の力を高めるために…
検査と治療はきちんと受けましょう

子宮の力を調べる検査にはいろいろあります。ほとんどは不妊症の原因を知るための基本的な検査ですが、ときには精密検査が必要な場合もあります。主治医が必要と判断した検査や治療は積極的に受けるようにしましょう。

□基本の検査

★頸管粘液検査
腟分泌物を採取して、頸管粘液の分泌量や性状を調べます。また、血液検査によるホルモンの分泌量も参考になります。検査の結果、必要であればホルモン補充療法を行います。

★ホルモン検査
卵子がうまく着床するにはエストロゲンとプロゲステロン、とくにプロゲステロンの働きが重要です。このため、プロゲステロンの分泌量が少ない場合には、黄体ホルモン補充療法を行います。しかし、ホルモンは互いに影響しあっているので、月経周期に合わせて生殖に関係するいろいろなホルモンを調べます。月経が終わってから排卵までの卵胞期には、脳下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)・LH(黄体化ホルモン)、排卵後の黄体期にはエストロゲンやプロゲステロンの分泌量を調べます。この他、PRL(プロラクチン)や甲状腺ホルモン、テストステロン(男性ホルモン)を調べることもあります。

★超音波検査
超音波診断装置を使って、子宮や卵巣を観察します。子宮内膜症などの卵巣のトラブルを発見することができるほか、子宮内膜の厚さを知ることもできます。子宮内膜が薄い場合には、ホルモン検査の結果と合わせてホルモン補充療法が必要かどうかを判断します。

★子宮卵管造影検査
造影剤を注入しながらX線撮影を行い、子宮や卵管に異常がないかを観察します。子宮筋腫やポリープ、子宮内膜症、子宮奇形などのトラブルが見つかった場合はMRIなどの精密検査が必要かどうかや治療方針を決める参考になります。卵管の狭窄や閉鎖が見つかった場合には、体外受精に進むべきかどうかを判断する助けになります。

□特別な検査

★抗精子抗体検査
精子不動化テストという血液検査です。もし、強い抗精子抗体があれば体内での受精は難しいので、体外受精が選択肢になります。

★子宮内膜検査
排卵後の高温期に、子宮内膜の一部を採取して組織を調べる検査です。受精卵の発育や着床の場となる子宮内膜の栄養状態などがわかると共に、排卵後の日数と内膜の発育状況が一致しているかがわかります。

★特別な血液検査
着床がうまくいかない原因として、自己免疫疾患や血液凝固異常があることがあります。一般血液検査と並行して特別な血液検査を行うことがあります。

日常生活の中で子宮の力を高めるには…

「子宮は受精卵が着床するベッドです」という言葉をもう一度、よく考えてみましょう。たとえば植物の種子は風や鳥に運ばれて、土の上に置かれ、根を張り、やがて芽を出します。種子が置かれた先の土、ベッドが水分や栄養豊かな土地ならその種子はきっと順調に芽を出すことでしょう。一方、石のように固く、水分もなく、まして栄養分も少ない土地だったらどうでしょう。種子は根を張ることができずに枯れてしまうかもしれません。 受精卵にとっては、子宮内膜は栄養分豊富な肥沃な土地であって欲しいものです。それには子宮内膜に届くホルモン量が十分でバランスがよいこと、全身の血行がよく、子宮へ届く血液量も十分であることが大切です。 日常生活でできることは、規則正しい生活リズム、栄養バランスのよい食事、適度な運動、ストレスの解消など、とても基本的なことばかりです。 これらが子宮の力を直接的に高めることではありませんが、ただ日常に取り入れることで効果を得ることがあります。たとえば身近な例ではストレスの軽減によりご夫婦仲がとてもよくなると、女性のホルモン分泌量が増すといわれているそうです。 これからお話しするのは、現在の日常生活を振り返り、心あたりがあれば軌道修正するためのアドバイスとご理解ください。

□子宮への血行をよくしましょう

★適度な運動で血行促進を
適度な運動は血行をよくします。ここで注意していただきたいのが労働は運動ではないということ! 仕事や家事労働はストレスを伴います。ラジオ体操でもよし、ヨガでもよし、早足ウォーキングでも結構です。適度な運動を日課にしましょう。運動は苦手という方は、新鮮な外気を吸いながら散歩を楽しむなど、心身のリフレッシュにつながる運動をしてみてください。適度な運動は冷え性の解消にもつながります。

★栄養バランスのよい食事を
1日3食の食事をできるだけ栄養バランスのよい献立に!食材は旬のもの、季節感を考えて選んでみてください。 間食のとりすぎには要注意を!冷たい食事や飲み物が好みという方は、腸が冷えて食物を消化する力や栄養成分を取り込む力が低下する心配があります。暑い季節でもできるだけ温かい食事を心がけましょう。

★冷え性の方は生活の中で冷え性対策を
とくに下腹部の冷えは子宮への血行を障害しがちです。夏はクーラーの直撃を避け、外気温と室内の温度差に対応できるようにカーディガンやストールを活用しましょう。薄着や裸足は避け、下腹部全体を包み、しめつけの少ないインナーを着用し、靴下をはきましょう。外では素足にミュールという方も、クーラーの効いた場所ではソックスを履くだけでも冷えを軽減することができます。冬は手袋、襟巻き、厚手のソックスで末梢血管を温め、冷えを防ぎます。足湯や腰湯を試してもいいでしょう。

★タバコを吸う方は今すぐ禁煙しましょう
喫煙が妊娠率を低下させることはよく知られています。また、血行不良を招き、子宮や卵巣へ届く血液量を低下させますし、タバコに含まれる有害物質が卵子の質そのものを低下させる可能性も指摘されています。 さて、生殖年齢にある女性たちの喫煙率は、この数年間ずっと横ばいです。増えてはいないものの減ってもいません。もし、今このコーナーを読んでくださっているあなたがスモーカーなら、今すぐ禁煙しましょう。ご主人がスモーカーであれば、間接喫煙の影響を説明して一緒に禁煙しましょう。 喫煙は男女ともに「百害あって一益なし」なのです。

□ホルモンの分泌を活性化させる努力を

★感情脳を刺激して感性を豊かにしましょう
ふと振り返ると、心が硬くなっていて、泣いたり笑ったり、感動したりの感情が貧困になっていると感じることはありませんか? 好きな趣味を再開する、映画や読書を楽しむなど、楽しい感性の充電を心がけましょう。ホルモン分泌の司令塔は脳にあり、ストレスの影響も受けやすいのです。感情脳の活性化を心がけ、ストレスを軽減することでホルモン分泌が活性化する可能性は高いのです。

★夫婦間の愛情表現を豊かにしましょう
お子さんにまだ恵まれていないご夫婦は仲がよいといわれます。家族の単位を考えたときに、私たち二人が家族…。互いを思いやり、尊重しあっていこうと思うからでしょうか。もちろん、そんなご夫婦も心の奥に「赤ちゃんができたら嬉しい」という思いを秘めているのではないでしょうか。 現在、不妊症の治療法は飛躍的に進歩しています。以前は無理とされていたご夫婦にもお子さんが授かるチャンスが生まれています。ただ、治療の過程ではご夫婦の間に微妙な心のずれが生まれることもあります。心身の負担が多い妻の側に、ストレスが多いのも確かです。それでもあえて言うと、夫婦仲がよいこと、無言より豊かな会話、肌と肌を触れ合う時間の豊かさが、女性のホルモン分泌を豊かにしてくれます。ぜひ、愛情表現豊かなご夫婦であるように、できるところからの努力をしてください。

【予   告】

今号でご紹介した「日常生活でできる子宮の力を高める方法」はごくごく一部です。また、医学的に明確な根拠、エビデンスがあるとははっきりと申し上げられない側面もあります。さて、受精卵の着床には、子宮内膜と受精卵の相互作用が微妙に関係しあっています。医学的に検証していくととても難しい側面を持っています。

次号では、生殖細胞(精子および卵子)の受精能について現状で解明されていること合わせて、卵巣の若返り、細胞の活性に役立つサプリメントなどお話ししたいと思います。
不妊カウンセラー 西山純江

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