一般不妊治療・体外受精・顕微授精 西山産婦人科不妊治療センター

院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

NEW INFOMATION OF INFERTILITY

クリニック便り

2009年春号

テーマ 不思議がいっぱい!受精と着床の仕組み Part.5 =総集編 受精と着床Q&A=

体外受精・顕微授精は「生殖補助医療」「ART」と呼ばれています。
妊娠が成立するためには、何よりもまず、精子と卵子が受精して受精卵となることが、必要な絶対条件です。 生殖補助医療の研究が進むにしたがい、解明されてきた受精の仕組みは妊娠率を上げることにも貢献しています。
今回は、「受精と着床の仕組み」シリーズの最終号として、体外受精・顕微授精を受けられている方、また、これから受けようと考えてみえる方のために参考としていただけるような項目を考え、Q&Aスタイルで「受精と着床」に、お答えしたいと思います。
今号から初めてこのコーナーを読まれる方は、HP記載の「受精と着床の仕組みシリーズ」を、是非参照いただきたいと思います。 合わせて、当院院長 西山幸男著「HUG YOUR BABY 赤ちゃんが欲しいご夫婦のために…」を参照いただければ、理解がより深まることと思います。

Q1 体外受精と顕微授精の違いを教えてください

 体外受精・顕微授精では、

  1. 採卵と採精
  2. 媒精または顕微授精(ICSI)
  3. 受精の確認と受精卵の培養
  4. 胚移植

という4つの段階を踏みます。

採卵は卵巣から卵子を体外に取り出すことです。採卵の準備段階として、受精能の高い成熟した卵子に育つように、一般的には、採卵前に排卵の促進を行います。採精は精子を準備することで、精子洗浄濃縮法という方法で受精能の高い精子を選びます。 卵子と精子の準備ができたら、精子と卵子の受精に段階を進めます。 体外受精と顕微授精との違いは、この受精の段階です。 体外受精では卵子の周囲に選別された一定数の精子をふりかけて、精子が自分の力で卵子の中に入ることを期待します。これを媒精といいます。一方、顕微授精では一匹の精子を顕微鏡下で卵子の細胞質の中に注入します。これをICSI(イクシー/卵子細胞質内精子注入法)といいます。

体外受精では媒精後、顕微授精ではICSI後に受精を確認し、受精卵を培養し(培養器で発育を待つこと)、受精卵の発育を確認して子宮の中に戻します。精子と卵子が受精したあとの受精卵のことを「胚(はい)」と呼び、受精卵を子宮の中に戻すことを「胚移植」といいます。

つまり、体外受精と顕微授精では、②の受精の方法に違いがあるわけです。その他の過程は同じです。

Q2 受精卵はどのように育つのですか?

 最初の段階では精子と卵子の細胞が融合して、受精卵という新しい細胞となり、細胞分裂を繰り返しながら発育します。つまり受精卵の細胞が分割していくので、4細胞になった段階を4分割卵、8細胞になった段階を8分割卵というように、医学的には「分割卵」と呼びます。さらに、16分割卵は桑の実の形をしているので、桑実胚(そうじつはい)と呼び、さらに受精から約5〜7日目ごろになって細胞数が増えて子宮内膜に着床する段階まで発育した受精卵を胚盤胞(はいばんほう)と呼んでいます。

同一の受精卵を継続して観察した写真を紹介しましょう。

受精卵観察写真

注)採卵日当日をDay0とします。したがってDay1は採卵日より1日目、Day2は採卵日より2日目となります。 受精卵は通常、受精卵(Day1)→4分割卵(Day2)→8分割卵(Day3)→桑実胚(Day4)→胚盤胞(Day5)という具合に発育しますが、この受精卵の場合はDay4で初期胚盤胞になり、Day5で胚盤胞まで発育した段階で胚移植を行い、妊娠に至りました。 このように、同じ時期に複数個が受精卵になった場合にも、すべてが同じスピードで発育するとは限りませんし、また、人によっても発育のスピードが違うことがあります。受精卵の発育スピードにはそれぞれに微妙な差があるわけです。

Q3 体外受精を行っても受精卵にならないことはありますか?

 Q1で説明したように、体外受精では精子が自力で卵子の中に進入して受精することを期待します。精子はまず卵子の外側を覆っている透明帯(とうめいたい)を溶かして卵子の中に入り込み、透明帯の奥にある囲卵腔を通過し、卵子の細胞質の中に入らないといけません。受精のための第一段階であるこの過程がうまくいかない時に、受精に失敗することがあります。 一方、顕微授精(ICSI)では精子を直接、卵子の細胞質の中に注入します。つまり、上記の過程を人工的に行うことで、受精のための第一段階をクリアできます。正常精子の数が少ない男性不妊の場合に、ICSIを行う理由はここにあるのです。

しかし、精子が卵子の細胞質の中に到達したあとでも、双方の細胞の融合がうまくいかないことや、卵子または精子が活性化せずに受精卵にならないこと、また受精卵になったあとでも発育がうまくいかないなどの場合もあります。

Q4 「受精障害」について教えてください。

 受精の過程を簡単に言うと、

  1. 精子が卵子の外側にある透明帯に進入する
  2. 精子が透明帯の奥にある卵子の細胞膜に穴を開けて中の細胞質に進入する
  3. 卵細胞質内に入った精子と卵子の核が融合し、新しい遺伝子をもった新しい生命体—受精卵になる

上記のようなプロセスです。 これらの過程のどれかがうまくいかない場合に、体外受精やICSIで受精の機会を作ってあげても、なかには受精卵となることができない場合があり、それは卵子あるいは精子、ときには卵子と精子の両方に受精障害を起こす原因が隠れていることによるのです。 これまで原因不明不妊とされてきたなかには、この受精障害が隠れていることにあります。

受精障害の原因はさまざまですが、もっとも考えられるのが、卵子・精子それぞれの受精能(受精する能力)が低い場合です。たとえば、卵子側の原因としては、卵子の成熟度が低く、精子が進入しても細胞が活性化しない、透明帯が固く精子が進入できない、精子の先体反応を助ける透明帯の働きがうまくいかないなどがあります。精子側の原因としては、卵子の透明帯を破って進入するための先体反応がうまくいかない、卵子の細胞質に入ったあとで精子が活性化できないなどが考えられます。

また受精障害の特殊なケースの中に「多精子受精」があります。
これは卵子のまわりに精子をふりかけて行う通常の体外受精の際に1個の卵子に対して複数の精子が進入したもので、異常受精卵として子宮には戻せません。

●精子の受精障害を乗り越える治療法は顕微授精

精子の受精能は精液検査だけではわかりません。体外受精を行って受精が成立しないことでわかります。このため、体外受精による受精がうまくいかない場合には、早めに顕微授精を行います。先ほど述べた 1. 2. のプロセスを顕微授精によって行い、受精を助けるわけです。実際、体外受精では受精率の低い場合も、顕微授精によって受精率が上がり、妊娠に至ることが多いのです。

●卵子の受精能を高める排卵促進

精子だけでなく、卵子の側に受精障害がある可能性もあります。その最大の理由は、顕微授精によって精子を細胞質内に受け入れても、卵子の細胞質が活性化しないことが考えられます。つまり、卵子が十分に成熟していないことが原因と考えられ、適切な排卵促進を行うことで、卵子が十分に成熟した段階で採卵を行う工夫がされています。

●紡錘体を傷つけない顕微授精

受精が成立し、その後受精卵が正常に発育するために、顕微授精を行う際に、卵子の紡錘体を傷つけないことが重要であることがわかってきました。このため、紡錘体を傷つけない顕微授精の方法、ICSI時に紡錘体の位置を確認しながら操作するシステム《Oosight TM Imaging System:Oosight(オーサイト)システム》が開発され、臨床の場で活用されるようになりました。当院においてもこのシステムを実践しています(詳細はクリニック便り2008年夏号を参照ください)。

Q5 受精卵に染色体異常があると流産してしまうのでしょうか?

 受精卵は、母方の卵子と父方の精子、双方がもつ染色体が合体してできる新しい生命体です。それぞれから11対22本の常染色体とXYまたはXXのどちらか2本の性染色体を受け継ぎます(詳細はクリニック便り2007年新春号を参照ください)。 このときに、染色体の数や構造に異常が起こることがあります。自然妊娠の場合も、体内で受精した受精卵のおよそ70%程度に染色体異常が起こります。受精卵の染色体異常のそのほとんどは、予測がつかない誰にでも起こり得る突然変異なのですが、染色体異常のある受精卵は子宮内膜に着床しにくい、着床しても早期に流産する可能性が高くなります。

Q6 受精卵の着床前診断を行うと流産は防げるのでしょうか?

 胚移植する前の段階で、受精卵の染色体異常の有無を調べるのが、着床前診断です。現在、着床前診断を行う医療機関は限られていますが、実施している医療機関の報告によると、着床前診断で染色体異常のない受精卵を胚移植することで、流産は減少するといわれています。まだまだ課題も多く一般的に安全に行われるには時間を要すると思われます。

Q7 習慣流産の場合、受精卵の着床前診断は有効でしょうか?

 流産が三回以上起こることを習慣流産といいますが、原因として、両親のどちらかに染色体異常が隠れている場合があります。日常の生活には支障はないものの、妊娠に関して不都合が起こるわけです。このような場合にも、受精卵の着床前診断を行い、染色体異常のない受精卵を胚移植することで、流産を防げることができる場合もあります。

■最後に

生殖補助医療では、医療機関が卵子と精子、そして受精卵をお預かりします。これまで何度も「細胞」という言葉が出てきましたが、私たちは卵子・精子・受精卵を単なる細胞とみるのではなく、将来皆様の赤ちゃんとなる「命」として、大切に、慎重にお預かりし、生殖補助医療を行っております。治療の過程でご不安なこと、わからないことは何でもご遠慮なくご相談いただけたらと存じます。

■生殖医療の安全管理について

当院では、日々「安全と安心な医療」を基本理念とし診療を行っています。 院長以下スタッフの協力の下、患者様に信頼していただけるような治療を行い 良い結果につながっていくことを願っています。 医療は日進月歩です。遅れることなく技術を研磨し、施設内の業務にも安全な管理体制を構築し、常に気配り目配りに心がけ、各学会の基準に沿ったマニュアルにより安全管理を遵守させていただきます。

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