一般不妊治療・体外受精・顕微授精 西山産婦人科不妊治療センター

院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

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2008年夏号

テーマ不思議がいっぱい!受精と着床の仕組み Part.4 進化するARTのテクニック =紡錘体(ぼうすいたい)を傷つけない安全な顕微授精(ICSI)=

体外受精・顕微授精・受精卵凍結を生殖補助医療(ART)といいます。
ARTの登場は、一般不妊治療(タイミング法・AIHなど)では妊娠が難しいご夫婦に、赤ちゃんが授かる高度不妊治療として、多くのご夫婦に喜びを与えてくれました。さらに、ARTのテクニックの進歩は一般治療にも反映され、タイミング療法、AIH(配偶者間人工授精)の妊娠成功率を高めることにつながっています。連載4回目の今回は、アシステッド・ハッチング(孵化補助)など、ARTの具体的なテクニックの紹介が大変好評だったことを受けて、紡錘体を傷つけないICSIのシステムについて主に紹介すると共に、本年5月30日東京にて開催された第七回日本不妊カウンセリング学会に参加して得た最新ARTテクニックについてもコラムで紹介したいと思います。

紡錘体(ぼうすいたい)(Spindle:スピンドル)とは

紡錘体は有糸分裂をしている細胞に前期の終わりから後期の初めまで現れて、紡錘糸と呼ばれる多数のタンパク質性の糸状構造からなり、役割をたとえて言うなれば、細胞が分裂するとき、細胞がもっている「染色体を新しくできる細胞に移動させる装置」と理解してください。つまり、もし、紡錘体に傷がつくと、受精卵にとっては不都合なことが起こりかねないわけです。そこで現在、正常な受精卵を作る方法としてクローズアップされているのが、ICSI時に紡錘体の位置を確認しながら操作するシステム《Oosight TM Imaging System(旧SpindleView Imaging System):以下Oosight(オーサイト)システム》です。

体外受精(IVF)・顕微授精(ICSI)の基本をおさらいしましょう

体外受精・顕微授精(ICSI)の最大の特徴は、本来は女性の体内(卵管膨大部)で成立する「受精」の場を、体外に設定することです。そして、体外受精と顕微授精の違いは、体外受精は「自然」な受精を期待しますが、一方、顕微授精は「人工的に」卵子の中に精子を注入して受精を促す点に違いがあります。顕微授精は、顕微鏡下で、卵子の細胞質内に精子を1匹注入します。つまり、注入の段階までは「目で見て確認できる」わけです。しかし、体外受精、顕微授精ともに、「受精」そのものはインキュベーターの中で行われるために、「受精の瞬間」を観察することは今まではできませんでした。後述で説明をしますが最近では特殊な撮影法で受精の瞬間を撮影できるようにもなってきています。ただ、撮影ができる器械が一般的に普及するにはもう少し改良に時間を要すると思います。いずれにしても、ARTでは、受精率を上昇させること(受精卵ができないことには子宮に胚移植することができません)、そして受精の安全性を高めること(正常な受精が行われないと、着床率の高い質のよい受精卵となりにくいのです)が求められています。

Oosight(オーサイト)システムによる紡錘体を傷つけない方法

ICSI(イクシー)はもう皆さんご存知かと思いますが、卵細胞質内精子注入法のことで、精子を卵子の細胞質の中に注入します。今回の新しいシステムは顕微授精の際にこれまでよりさらに卵子を傷つけないための、保護の程度を高める方法と理解してください。

●ICSIの実際

ICSIでは、ホールディングピペットで卵子を固定した上で、卵子に精子を注入します。このとき、卵子の第一極体が12時、あるいは6時の位置になるように固定します。このように、第一極体の位置をある位置に特定する目的は、細胞分裂の際に必須の装置ともいえる紡錘体を傷つけないためです。一般にこれまでは紡錘体は第一極体のすぐそばにあると考えられてきたからです。

第一極体
★第一極体とは?

さて、卵子や精子は生殖細胞で、受精卵に遺伝子情報を伝えるために、減数分裂を行うのが大きな特徴です。すなわち、私たち成人の細胞には通常、常染色体 22対44本と性染色体2本がありますが、生殖細胞である卵子と精子はそれぞれ、常染色体11対22本と1本の性染色体をもちます(2007年新春号/わかりやすい遺伝の話—NO. 1/『遺伝とは…』の項を参照ください)。 卵子は排卵の過程で、第一分裂で第二次卵母細胞と第一極体になり、さらに、第二分裂で第二次卵母細胞は卵実質と第二極体になります。排卵時の卵子は第二分裂の途中ですが、ARTの場合、自然排卵の少し手前で採卵するので、受精時の卵子には第一極体があります。

●Oosight(オーサイト)システムの具体的な方法

具体的には、これまでの顕微鏡に特殊なレンズを装着することにより、紡錘体の位置を観察・確認します。特殊なこのレンズは小粒な優れもので卵子の質(紡錘体の位置づけ、紡錘体の密度《レターダンス値》、長さの測定や透明帯の精査情報)の数値的評価が可能です。そして紡錘体を傷つけないようにICSIができます。

●紡錘体を保護する目的は?

なぜ、紡錘体を守ることが重要かというと、紡錘体は細胞が減数分裂をする際に、染色体の正常な配置と分離に重要な役割を果たし新しい細胞に染色体を移動させています。もし、紡錘体に傷がつくと、染色体異常などの不都合が生じ、受精できない、受精しても発育できないなどの困ったことが起こる心配もあるわけです。

●Oosight (オーサイト)システムは第一極体から離れている紡錘体が確認できます。

これまでの顕微鏡では、紡錘体がどこにあるか正確に確認することが困難でした。紡錘体は直径25マイクロメートル(1マイクロメートルは1メートルの 100万分の1)という非常に小さなものなのです! 通常、紡錘体は第一極体のそばにあります。このため、第一極体を顕微鏡で確認・固定しながら、これまではICSIを行ってきたわけです。しかし、実際には、卵子のおよそ30%では、紡錘体は第一極体より約30度以上離れているとわかってきました。 ARTでは受精の際の安全性を高めることが妊娠成功率の上昇につながります。Oosight (オーサイト)システムの導入は、顕微授精の妊娠成功率上昇につながるといってよいでしょう。
実際に当院では平成19年から本システムを導入し紡錘体の位置を確認した安全なICSIを行った結果、少数の卵子しか得られないケースでも無事妊娠にいたった患者様が徐々に増えています。

Oosight TM Imaging System(オーサイト・システム)による紡錘体画像
オーサイト・システムによる紡錘体画像
コラム 不妊カウンセラーの勉強日記より

受精の瞬間、受精卵の発育、そして子宮内膜への着床までを、動画像で見ることができました〜日本不妊カウンセラー学会学術会議に出席して〜 5月30日(金曜日)、東京へ出かけました。日本不妊カウンセリング学会第7回学術集会に出席するためです。学術集会長は安藤寿夫先生(豊橋市民病院総合生殖医療センター)で、『顕微鏡内蔵型受精卵動画記録培養装置が切り拓く生殖医療の未来図』と題して、会長講演が行われました。
そこで私たち出席者が目にしたのは、精子が卵子の中に入り込む「受精の瞬間」です。さらには受精卵となり、2分割卵、4分割卵、桑実胚、胚盤胞へと発育する受精卵の姿です。そしてもっとも衝撃的だったのは、受精卵が母体の子宮内膜へと深く埋没する着床の瞬間をとらえた映像でした。それは、まるで湖の静かな水面下に消えるように、子宮内膜の奥へと沈み込んでいく姿でした! 感動という言葉だけでは表現しきれない、新しい生命誕生の瞬間をとらえた衝撃の映像だったのです。 しかも、この映像にとらえられた「受精卵」はその後、妊娠されたとのことでした。 近い将来、皆さんの赤ちゃんの成長日記に、「これがぼく(わたし)という命が誕生した瞬間!」と、受精と着床の映像が加わる日がくるかもしれませんね…。

★顕微鏡内蔵型受精卵動画記録培養装置

「顕微鏡内蔵型受精卵動画記録培養装置」とは、体外受精・顕微授精で通常用いる培養装置(インキュベーター)に、動画記録用の顕微鏡を内蔵した装置です。 今回クローズアップされたこの装置は、ARTの進歩のために、今後重要な意義をもってくると思われます。というのは、受精卵の質を観察する方法として、静止画に倍する価値をもつからです。すなわち、現在、受精卵のグレードを判断する場合にはフラグメントの有無や細胞の盛り上がり方などを観察しますが、この装置によって、さらに精緻に観察・評価することが可能になるからです。 普及には今しばらく時間を要しますが神秘の聖域がまた幕をあげたことになりますね。

今回のお話は少々専門的な言葉が多くてわかりにくかったかもしれませんね。受精率を上昇させ、受精卵の安全性を高めるためにARTのテクニックは日々進歩しているわけで、当院も患者様に1日も早く赤ちゃん誕生の朗報を得ていただくため、院長以下スタッフ一同日進月歩で進む先端不妊治療に取り組み勉強する姿勢でまいります。

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