一般不妊治療・体外受精・顕微授精 西山産婦人科不妊治療センター

院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

NEW INFOMATION OF INFERTILITY

クリニック便り

2007年夏号

テーマ わかりやすい遺伝の話―No.3 不妊症や不育症に関係する遺伝(体質)について

ことしのテーマは遺伝に関係したお話です。
今回は不妊症や不育症に関係する遺伝(体質)についてお話したいと思います。

命の始まりと遺伝子

遺伝のお話の1回目を思い出してください。父と母から染色体(遺伝子)を受け継いで、新しい生命体ができることを「遺伝」といいます。子どもが欲しいと願っているご夫婦自身も、それぞれの両親から遺伝子を受け継いでいるわけです。

次に、遺伝のお話の2回目を思い出してください。非常にまれとはいえ、夫婦のどちらかが「不妊症や不育症の原因になる隠れた遺伝子」をもっている場合があります。ふだんはなにも不都合なく生活しているのですが、このような隠れた遺伝子を持っている人を保因者といいます。
そして、「赤ちゃんがほしい」と願ったときに、この隠れた遺伝子が原因となり、妊娠しにくい場合や流産してしまうことがあるのです。

代々に渡って遺伝子がシャッフリングされながら受け継がれてくる過程では、生殖機能だけでなく、さまざまな面で困った遺伝子が顔を出すことがあります。

今月は、このような隠れた遺伝子が関係する不妊症と不育症についてお話します

遺伝子が関係する不妊症

通常、私たちは、44本の常染色体(2本×22対)と、2本の性染色体、計46本の染色体をもっています。性染色体は、男性ではXY、女性ではXXです。しかし、まれとはいえ、性染色体の数に異常があると、不妊の原因になります。

女性の場合はターナー症候群といって、性染色体XXのうち、ひとつが欠損しています(X0)。程度の高い場合は思春期になっても第二次性徴が現れない、無月経や無排卵などの卵巣機能不全の症状がはっきり出ます。しかし、無月経や早期閉経などはっきりした症状のある方はむしろ少なく、不妊の原因を調べる過程において、染色体の詳しい検査を受けて初めてわかるケースが多いのです。

男性の場合はクラインフェルター症候群といって、X染色体がひとつ多く、XXYとなっています。症状として無精子症や高度な乏精子症であることもありますが、そうではない方も多く、不妊検査の過程で初めてクラインフェルター症候群とわかることもあります。

軽症のターナー症候群の場合は排卵もあって妊娠・出産する方もいますが、現実にはかなり少数といわれています。クラインフェルター症候群の場合、顕微授精の発達によって妊娠が可能になってきました。射精精液に精子がいない場合も精巣から直接完成精子を採取し、精子になる一段階前の後期精子細胞を採取するなどして、顕微授精することで妊娠する方法があります。

不育症と染色体異常

流産を3回以上繰り返した場合を不育症(習慣性流産)といいます。定義では3回以上ですが、実際の診療では、2回繰り返した時点で不育症を疑うことが多いと思います。

流産の原因はさまざまありますが、多くは胎児の染色体異常と考えられています。ほとんどは遺伝とは関係がなく、精子や卵子が作られる過程や受精後早い時期に受精卵に異常が起こったと考えられます。つまり、両親のどちらかが保因者でなくとも、流産は起こりえるわけです。しかし、ときには、両親のどちらかに染色体異常が隠れている、つまり保因者であることが原因になっている場合があります。
たとえば、染色体の数には異常はなく構造に異常があるのが相互転座、ロバートソン転座です。保因者本人には困ったことは起こらないのですが、受精卵の段階で不都合が起こり、多くは流産を繰り返します。

染色体の検査

本人はまったく症状もなく、意識もせずに生活していますが、詳しく検査すると隠れた遺伝子の保因者であることがあります。

ある調査では2回流産を繰り返したご夫婦の約5%に、夫婦のどちらかに染色体異常があるとしています。この場合、次の妊娠が流産にならないような対策が重要ですが、それにはまず、流産児に染色体異常があったかどうか、あった場合に両親のどちらかに染色体異常があるかどうかの検査を受ける必要があります。

その上で両親のどちらかが保因者とわかった場合には、着床前診断といって体外受精・顕微授精でできた受精卵の染色体異常の有無を調べ、染色体異常のない受精卵を胚移植する方法が考えられます。また、妊娠後に羊水穿刺などで胎児の染色体検査を受ける方法もあります。しかし、現在のところこれらの方法は学会の承認を受けた限られた医療施設でしか行われていません。

終わりに

「染色体異常」という言葉にびっくりする方も多いことでしょう。しかし、医学的に考えると正常と異常の境目はとても不鮮明なことが多いのです。「親からもらった体質」などと、何気なく使う言葉の中に、「遺伝子の個性」が隠れています。私たちはみんな、何がしらの隠れた遺伝子をもちつつ暮らしているといっていいのでしょう。

とはいえ、現在の医学では解明できない未知の部分は今も多くあります。 遺伝子解析についても治療への応用はまだこれからです。遺伝という言葉に不安にならないで、医学の進歩と解明の流れの中で新しい治療法が開発されることを信じて希望を持っていきたいと思います。

暑い日になりそうです。夏ばてしないように食事には気を配りたいものです。

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