院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

人工授精(AIH)

人工授精(AIH)

人工授精(AIH)

人工授精(AIH)とは

人工授精(AIH)とは、受精の場である卵管内に必要十分な精子を届けるため、夫の精子を子宮内に注入する治療法です。精液そのものを注入するのではなく、精液を遠心分離し、精液中の不純物や死滅した精子を取り除き、運動性の高い元気な精子を選別し、精製した精子を注入することで妊娠の可能性を高めます。
通常、精子は事前に洗浄・濃縮され、排卵日に合わせて注入されます。

人工授精イメージ図

人工授精(AIH)の適応

人工授精(AIH)の適応は、タイミング法で妊娠が難しい場合や、精子の運動性が低い、または精子の数が少ない場合、EDなどの性交障害がある場合に適しています。また、子宮頚管に問題がある場合や、原因不明の不妊症に対しても、この方法が用いられることがあります。個々の状況に応じて医師が適応を判断します。

AIHの意味は?

AIHは英文のArtificial Insemination with Husband’s spermの略で、夫の精子を用いる配偶者間人工授精を指します。これに対して非配偶者間人工授精はAIDといいます。通常「人工授精」という時は配偶者間人工授精を指しているので、AIHと略されることが多いのです。

人工授精(AIH)の流れ

排卵検査による排卵日の予測
超音波検査にて卵巣内の卵胞の大きさを観察し、排卵が近づいているかどうかを判断します。個人差はありますが、卵胞が約20mmになると排卵間近であると考えられます。さらに、排卵の近さを確認するため、子宮頚管粘液の状態や、尿中LH(黄体化ホルモン)や血中エストロゲン、LH濃度測定を通じて、排卵の正確なタイミングを確認します。HCGを注射して排卵時期を特定する場合もあります。

卵胞発育の様子
右卵巣と左卵巣①
左右の卵巣に複数の小さな卵胞が確認できます。
右卵巣と左卵巣②
右卵巣から1つ大きく成長する卵胞が確認できます。
右卵巣と左卵巣③
一番大きく発育した卵胞が約20mmと排卵間近の大きさに成長しています。

人工授精(AIH)の日程決定
排卵日の予測をもとに、人工授精(AIH)の日程を決定します。

人工授精(AIH)を実施
人工授精(AIH)当日にご夫婦で来院していただきます。しかし、夫が来院できない場合、ご自宅で採精して頂き、奥様だけでの来院も可能です。来院後、採精して頂いた精子を洗浄・濃縮して子宮内に注入します。どうしても都合がつかない場合には、あらかじめ精子を凍結保存しておくことができ、凍結保存した精子を融解して人工授精(AIH)を行うことも可能です。

妊娠の確認
生理予定日から1週間以上生理が遅れて来た場合や、妊娠検査薬で陽性反応が出た場合には、超音波検査を通じて、妊娠の確認を行います。正常妊娠では妊娠5週に子宮内に胎嚢(GS)が確認できます。

胎嚢(GS)

人工授精(AIH)からのステップアップ

当院の人工授精(AIH)における累積妊娠率のデータでは、妊娠される方の約90%は人工授精(AIH)4~6回目までに成功しています。そのため、その回数を目安に体外受精へステップアップすることを提案し、治療方針の見直しを行います。ただし、妻の年齢が高くなると、妊娠に残された時間が少なくなるため、できるだけ早くステップアップすることを提案しています。

AIH回数別累積妊娠率(当院データ)

人工授精の実際

精液を洗浄・濃縮して元気な精子を確保します

射精直後の原液精液には、運動性の弱い精子も含まれています。精子洗浄・濃縮法は、不動精子や動きの悪い精子などを除外して元気な精子を確保する方法で、人工授精の妊娠成功率が高くなります。精液に含まれる白血球や脂肪球、雑菌などを取り除くこともできます。洗浄濃縮液の上に精液を重層し、軽く撹拌してから遠心分離器にかけます。管の底に運動性の高い良好精子だけが沈殿します。

精液の洗浄・濃縮イメージ図
精子運動解析装置(SMAS)で精子の運動性を測定します

当院では、精子運動解析装置(SMAS)で、濃度、総精子数、運動率に加え、目視では計測できない直線速度、平均速度、頭部振幅、精子の元気さがわかるSMV値などを測定して、人工授精を行う際の参考にしています。精子の洗浄濃縮法を含めて、精子の調整は人工授精や体外受精の時に行われる受精率向上に欠かせない技術です。

授精用カテーテルを使って子宮内に精子を届けます

洗浄・濃縮された精液を授精用カテーテルに吸引し、子宮内に注入します。人工授精そのものの所要時間は5分程度ですが、精液の採取や洗浄・濃縮などの準備を含めると、全体で2時間程度かかります。
痛みはほとんどありません。なかには子宮頸管が細くなっていたり、湾曲している方もいますが、人工授精専用のカテーテルはシリコン製で細く柔らかいので、痛みを伴うことはほとんどありません。
このように、人工授精は負担の少ない治療法なので、繰り返し受けられるメリットがあります。

人工授精イメージ図
人工授精を受けたあとの注意事項
帰宅後は普通に生活して大丈夫です

人工授精のあとは、自然な性交と同様に、体内で卵子と精子が受精するのを待ちます。当院の場合、人工授精を受けた直後は診察台でそのまま5分ほど安静にしていただきますが、帰宅後は普通に生活して大丈夫です。

基礎体温をきちんと測りましょう

基礎体温は引き続き、きちんと測って基礎体温表に記入します。人工授精の実施日は概ね、排卵日と重なり、基礎体温は高温になります。

指示通りに通院しましょう

受精に成功すると、受精卵は子宮内膜に着床します。人工授精の実施後は、受精卵が着床しやすいように、子宮内膜を調整する目的で黄体機能をサポートします。黄体ホルモン濃度を上げる注射や飲み薬を使用しますので、指示通りに通院しましょう。

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