軽度の男性不妊や頸管粘液不全が対象です
人工授精の対象になるのは、タイミング法(通常の性交)では妊娠しにくい場合です。通常2~3周期タイミング法を試みたあとに、人工授精に進みますが、タイミング法では妊娠が難しい原因がある場合は、最初から人工授精を行います。
軽度の男性不妊
精子数が少ない、活動性が低い等の男性不妊(精液異常)があると、通常の性交では卵管に到達する精子数は少なくなります。このため、精子の移動距離を短くするのが人工授精です。但し、自然な受精には一定数以上の活動性の高い精子が必要ですから、対象は軽度の男性不妊に限られます。
EDなどの性交障害
ED(勃起不全)による射精障害など、腟内への射精が難しい場合に人工授精を行う場合があります。
頸管粘液不全
女性側に原因があるケースです。子宮頸管から分泌される頸管粘液の分泌量が少ない、あるいは性状が悪い場合には、子宮の中に進入する精子数が少なくなります。人工授精で、子宮頸管を通り越して直接、子宮内に精子を送り届けます。
排卵日を予測してタイミングよく行います
人工授精をしても、すでに排卵が終わっていては意味がありません。このため、人工授精は排卵日に合わせてタイミングよく実施します。タイミング法同様に、超音波検査による卵胞計測、尿検査や血液検査によるLHの測定、LHサージの観察等を行い、排卵日を正確に予測します。HCGを注射して排卵時期を特定する場合もあります。
また、必要な場合には、確実に排卵するように、排卵を整える治療を合わせて行う場合があります。
凍結保存した精子を用いることもできます
人工授精では原則として、人工授精当日に精液を採取します。しかし、どうしても都合がつかない場合には、あらかじめ精子を凍結保存しておくことができ、凍結保存した精子を融解した上で人工授精を行います。
当日の射精だけでは一定数の精子が確保できない場合には、数回分の凍結精子をまとめて融解して人工授精することもできます。
AIHの意味は?
AIHは英文のArtificial Insemination with Husband’s spermの略で、夫の精子を用いる配偶者間人工授精を指します。これに対して非配偶者間人工授精はAIDといいます。通常「人工授精」という時は配偶者間人工授精を指しているので、AIHと略されることが多いのです。
人工授精の実際
精液を洗浄濃縮して元気な精子を確保します
射精直後の原液精液には、運動性の弱い精子も含まれています。精子洗浄濃縮法は、不動精子や動きの悪い精子などを除外して元気な精子を確保する方法で、人工授精の妊娠成功率が高くなります。精液に含まれる白血球や脂肪球、雑菌などを取り除くこともできます。
洗浄濃縮法にはいろいろありますが、当院ではアイソレートを用いた撹拌密度勾配法を採用しています。アイソレートという洗浄濃縮液の上に精液を重層し、軽く撹拌してから遠心分離器にかけます。管の底に元気な精子だけが沈殿します。
精子特性分析機(SQA)でSMI値を測定します
当院では、精子特性分析機(SQA)で、精子の元気さがわかるSMI値を測定して、人工授精を行う際の参考にしています。精子の洗浄濃縮法を含めて、精子の調整は人工授精や体外受精の時に行われる受精率向上に欠かせない技術です。
授精用カテーテルを使って子宮内に精子を届けます
洗浄濃縮された精液を授精用カテーテルに吸引し、子宮内に注入します。人工授精そのものの所要時間は5分程度ですが、精液の採取や洗浄濃縮などの準備を含めると、全体で2時間程度かかります。
痛みはほとんどありません。なかには子宮頸管が細くなっていたり、湾曲している方もいますが、人工授精専用のカテーテルはシリコン製で細く柔らかいので、痛みを伴うことはほとんどありません。
このように、人工授精は負担の少ない治療法なので、繰り返し受けられるメリットがあります。
人工授精を受けたあとの注意事項
帰宅後は普通に生活して大丈夫です
人工授精のあとは、自然な性交と同様に、体内で卵子と精子が受精するのを待ちます。当院の場合、人工授精を受けた直後は診察台でそのまま5分ほど安静にしていただきますが、帰宅後は普通に生活して大丈夫です。
基礎体温をきちんと測りましょう
基礎体温は引き続き、きちんと測って基礎体温表に記入します。人工授精の実施日は概ね、排卵日と重なり、基礎体温は高温になります。
指示通りに通院しましょう
受精に成功すると、受精卵は子宮内膜に着床します。人工授精の実施後は、受精卵が着床しやすいように、子宮内膜を調整する目的で黄体機能をサポートします。黄体ホルモン濃度を上げる注射や飲み薬を使用しますので、指示通りに通院しましょう。
約3週間後に妊娠判定を受けましょう
高温期が2週間以上続く場合は妊娠の可能性が高くなります。診察を受け、妊娠判定を受けましょう。