一般不妊治療・体外受精・顕微授精 西山産婦人科不妊治療センター

院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

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2016年盛夏号

テーマ遺伝相談その② 不育症と両親の染色体異常について

はじめに

不育症は流産を繰り返す状態をいいます。2回以上流産を繰り返した場合を「反復流産」、3回以上繰り返した場合を「習慣流産」といいます。
以前は習慣流産を不育症としていましたが、妊娠とわかった喜びもつかの間、妊娠が途絶えてしまう悲しみはとても深く、とくに女性の心身に強いダメージを与えかねません。最近は反復流産の段階で不育症を疑い、検査を行うことが多くなっています。
不育症の原因はさまざまありますが、なかにはご夫婦のどちらかがもっている隠れた染色体異常が原因となっている場合があります。このようなケースを「夫婦染色体異常」といいます。
今号では、夫婦染色体異常が流産の原因になる仕組みや、流産を防いで赤ちゃんを授かる方法について考えてみます。

復習:遺伝は受精の瞬間に起こる現象です

前号の遺伝相談その①では、親から子へ伝わる遺伝の仕組みについてご説明しました。今号のテーマでは遺伝の仕組みが重要な基礎知識になります。ここで簡単におさらいしましょう。

染色体は遺伝情報の収納庫です

ヒトの体細胞1つあたり46本の染色体があります。また、染色体には約3万もの遺伝子が遺伝情報として集約されており、染色体は遺伝情報(遺伝子)の収納庫です。通常、両親から染色体を受け継ぎ、1番から22番までの常染色体と性染色体(XまたはY染色体)が対になり、各々の染色体は1対2本のぺアとして構成されています。

  • 染色体標本の一例(女性の場合)
受け継ぎ担当は精子と卵子です

遺伝のバトンタッチは受精から始まります。精子と卵子が受精する瞬間、遺伝情報は染色体によって受精卵へと受け継がれます。両親から受精卵へと伝わる精子と卵子の染色体の組み合わせは、約70兆通りもあります。新しい命、受精卵は70兆分の1という個性をもつのです。

精子と卵子は受精に備えて減数分裂をします

私たちの体を構成する細胞には体細胞と生殖細胞(精子と卵子)があります。体細胞はそのままコピーされながら分裂を繰り返します。しかし、精子や卵子は減数分裂という、体細胞とは違う細胞分裂をします。減数分裂では、染色体は一度2倍に増えて4本になるのですが、その後に細胞は2回分裂を行い、最終的には1本の染色体をもった精子や卵子が4つできます。この仕組みのお蔭で、受精卵になったときには父由来と母由来の染色体がペアを組み、23対46本の染色体を持つことになります。

受精卵の染色体異常の原因と流産リスク

さて、ここからが今号のテーマです。
流産のほとんどは妊娠12週未満で起こる早期流産です。そして、早期流産の多くは、胎児の染色体異常が原因と考えられます。では、どんなときに受精卵の染色体異常が起こるのでしょう。
怖くて流産の話は読みたくない!という方もおいでかと思います。しかし、流産リスクの種類によっては防ぐことができるようになってきました。不安をおもちの方こそ、できれば冷静にお読みいただきたいと思います。

精子・卵子の減数分裂がうまくいかないと、受精卵に染色体異常が起こることがあります
  • 染色体異常には数の異常と構造異常があります。
  • 数の異常について
    精子や卵子が減数分裂する過程で、染色体が均等に分かれていけば染色体の数が同じ精子や卵子ができるのですが、不分離といって正常に分かれていかないと、一方は染色体の数が多かったり、もう一方は少なかったりする数の異常が起こります。受精卵の染色体が3本になることをトリソミー、1本しかない場合をモノソミーといいます。不分離は女性の加齢に伴ういわゆる「卵子の老化」も原因の1つといわれています。
  • 構造異常について
    構造異常は染色体の形の異常のことで、よく見られる異常の種類に相互転座、ロバートソン型転座、逆位などがあります。また、形の異常には、染色体上の遺伝子の量そのものには問題のない均衡型と、染色体の遺伝子の量が崩れる不均衡型があります。
受精卵の染色体異常は、流産の重要な原因になります
  • トリソミーやモノソミーなど、染色体の数に異常があると遺伝情報の量が変わり、流産が起こりやすくなります。
  • 染色体は大きい順から1~22番にナンバリングされています。21トリソミーの多くは流産になるといわれ、出生にこぎつけた場合にはダウン症児として誕生します。18モノソミーではほとんどが流産となります。
  • 構造異常の場合、染色体の量に問題のない均衡型構造異常では、多くは流産の直接の原因にはなりません。しかし、一部の染色体が欠けたり多かったりする不均衡型では、さまざまな遺伝子の量的過不足をもつため、流産リスクは高くなります。
受精卵の染色体異常は、偶発的に起こる突然変異によることが多くあります
  • 精子と卵子の組み合わせでは膨大な種類が生まれます。
    ときにはトリソミーやモノソミーなどの偶発事故が起こる場合があります。
  • 偶発事故による受精卵の突然変異は、どのご夫婦にも起こる可能性があり、このような事故は実はよく起こり、防ぐことのできない自然淘汰の現象といえます。
  • たまたま起こる事故なので原因を特定することはできませんが、女性の年齢が高くなるにしたがって多くなり、原因として女性の加齢に伴ういわゆる「卵子の老化」が関係しているといわれています。
  • 卵子減数分裂時の染色体分離と不分離

※図出典元:日本生殖医学会HP-不妊症Q&A/「Q20加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?
図3.染色体の不分離による卵子の染色体異常」タイトル等一部加筆

夫婦染色体異常と不育症の関係
均衡型の構造異常を持っていて症状がない人を「保因者」といいます
  • 均衡型の構造異常を持っていて症状がない人を「保因者」といいます。
    両親からの遺伝による場合や、そうでない場合もありますが、遺伝の場合は両親や祖父母、あるいはご自分の兄弟姉妹が同じ保因者の可能性があります。
  • 代表的な隠れた染色体異常には、均衡型相互転座、ロバートソン型転座、逆位などがあり、これらを「均衡型染色体構造異常」といいます。
  • 一般の方を対象に染色体を調べると、230人にひとりは均衡型染色体構造異常の保因者というデータがあります。なかでも、最も多いのが均衡型相互転座で、その頻度は400人に1人、200組のご夫婦に1組ともいわれています。
  • 均衡型構造異常
夫婦染色体異常は不育症の重要な原因になります
  • ご夫婦のどちらかが保因者の場合を夫婦染色体異常といいます。
  • 受精卵の染色体異常や流産が起こる可能性は、染色体異常のないご夫婦より高くなります。
  • ご夫婦どちらかからの遺伝なので、次の妊娠でも同じことが起こる可能性があり、反復流産や習慣流産など不育症の重要な原因となります。
  • 習慣流産では、約5%のご夫婦に染色体異常が見つかります。
  • 夫婦の一方が正常型、一方が均衡型相互転座の場合、受精卵は正常型あるいは均衡型相互転座となります。しかし、一部は不均衡型になります。不均衡型は染色体の数に異常を伴うので、流産の原因になります。
夫婦染色体異常の場合、流産を防ぐ方法があります

夫婦染色体異常では、流産を回避し、赤ちゃんを授かる夢が叶う可能性があります。それには、ご夫婦で染色体検査を受け、夫婦染色体異常とわかった場合、受精卵の着床前診断を受ける必要があります。
チャレンジする前には、遺伝相談を受けましょう。今号では夫婦染色体異常のごく一部しか紹介しておりませんが、染色体異常の遺伝にはさまざまなケースがあります。また、現在、夫婦染色体異常による不育症とわかり、受精卵の着床前診断を受ける際には、日本産科婦人科学会の承認を受ける必要があります。
以上のことから、遺伝に詳しい専門医のアドバイスを受けていただくのがベストと考えるからです。但し、遺伝相談は結論を押しつけるものではありません。結論を出すのはご本人です。遺伝相談の目的はあくまでもご本人の判断をお手伝いすることです。
なお、不育症の場合、ご夫婦の染色体検査の前に流産胎児の染色体検査を勧められることもあります。以下にそれぞれの検査を受ける際の注意点を整理いたします。

流産胎児の染色体を調べるとき
  • 胎児の細胞を採取して、染色体を調べます。
  • 両親の染色体検査が必要かどうかは、染色体異常のタイプによって違います。
    たとえば均衡型染色体構造異常が見つかった場合、ほとんどは両親からの遺伝です。流産を繰り返す可能性は高く、両親の染色体検査は必須です。
夫婦で染色体検査を受けるとき
  • 血液検査です。採血した血液中の白血球の染色体を調べます。
    結果は通常、4週間程度でわかります。
  • できればご夫婦で一緒に受けるのが理想的です。但し、保因者とわかった場合、ご本人の兄弟姉妹も保因者の可能性があります。
  • ご夫婦のどちらが保因者かは知りたくないという方もおられます。
    事前にその旨を伝えると、どちらなのかは特定せずに結果のみを知ることができます。
受精卵の着床前診断を受けるとき
  • 受精卵の段階で染色体検査を行うため、体外受精(顕微授精を含みます/以下、体外受精と表記します)を受ける必要があります。
  • 体外受精で得た受精卵から細胞を採取し、染色体検査を行います。
  • 発育に支障のない部分からごく少量、数個の細胞を採取しますから、その後の受精卵の発育に支障はないとされています。
  • 染色体正常型の受精卵、あるいは均衡型染色体異常の受精卵を子宮に戻し(胚移植)、着床(妊娠)を待ちます。均衡型の場合、誕生した赤ちゃんは保因者ですが、表に表れる病気はありません。
  • 但し、全部が妊娠につながるわけではありません。
さいごに
   

以上、ご夫婦のどちらかに隠れた染色体異常がある夫婦染色体異常について、お話ししてきましたが、お子さんを授かりにくいご夫婦のなかには、重篤な遺伝病がお子さんに伝わるのを懸念しておられる方もいます。
このような重い遺伝病や夫婦染色体異常による反復流産・習慣流産を避ける目的で実施される受精卵の着床前診断はPGDとも呼ばれます。
一方、平成26年11月よりは対象が広がり、体外受精で3回以上着床しなかった方や、流産を2回以上経験した方などが対象になりました。この場合の着床前診断は着床前スクリーニング(PGS)と呼ばれ、PGDとは区別されています。
いずれにしても、体外受精を行い、胚移植する前に染色体を調べるという基本は同じです。その意味でPGSの実施により、体外受精の妊娠率が高まると期待されています。


記事監修は西山幸江副院長(日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会認定生殖医療専門医、日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会認定臨床遺伝専門医)が担当いたしました。


不妊カウンセラーよりひとこと
   

染色体検査(遺伝子解析)の技術の進歩には目覚ましいものがあります。日本の場合は、事前に日本産科婦人科学会の了承を得ることになっていますが、アメリカなどではそのような制限はないそうです。
あらかじめ精子・卵子の遺伝子解析を行い、受精卵の遺伝形質をデザインすることも不可能ではなく、アメリカではこの結果、誕生するデザイナーベビーについて問題提起する報道も見受けられます。
西山産婦人科では、「生殖医療は不妊に悩みながら、あるいは流産を繰り返す悲劇に耐えながら、お子さんが欲しいと切望するご夫婦のための技術」という原点を忘れずに、日々、研究と臨床に精進しております。

日本不妊カウンセラー学会認定カウンセラー 西山純江
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