一般不妊治療・体外受精・顕微授精 西山産婦人科不妊治療センター

院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

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2016年夏号

テーマ遺伝相談その① 親から子へ遺伝情報が伝わる仕組み

はじめに

生物がもつ形質が次世代に伝わることを「遺伝」といいます。私たちの体はたくさんの細胞からできていて、大きく体細胞と生殖細胞に分けられます。遺伝を担うのは、生殖細胞です。
遺伝は、父方の精子と母方の卵子が受精し、受精卵となった段階で初めて起こります。生殖細胞は次世代へ命をつなぎ、遺伝形質を伝える重要な働きをしているわけです。
今号では親から子へ遺伝情報が伝わる仕組みについて、できるだけわかりやすく説明したいと思います。

私たちの体はすべて細胞でできています
私たちの体は約60兆個の細胞でできています

私たち人間の体は心臓や肝臓、皮膚や髪の毛まで、すべてが細胞でできています。大人の場合、その数は約60兆個といわれています。これは体重1kgに約1兆個の染色体があるという前提で計算されたものです。生まれたばかりの赤ちゃんの細胞数は約3兆個といわれるのは、出生体重を3kgとして算出されています。

細胞には両親からもらい受ける遺伝情報が収納されています

すべての細胞には、体を形成したり、生きるために必要な情報を担うDNA(遺伝子)が収まっている染色体があります。染色体は遺伝情報の収納庫といっていいでしょう。
染色体の数や構造は生物それぞれに違いがあり、人間には2本で1対となる常染色体22対44本と性別を決める性染色体1対2本、計46本の染色体があります。性染色体にはX性染色体とY性染色体があり、女性はXX、男性はXYの組み合わせです。
染色体には受精の瞬間に両親からもらい受けた遺伝情報が収められ、両親からどんな遺伝情報を受け継ぐかによって、私たちの個性が決まります。

私たちの個性が決まるのはいつでしょう
遺伝は受精の瞬間に起こります

妊娠は、精子と卵子が受精し、新しい生命体である受精卵が発生するところから始まります。発生した時、受精卵はたったひとつの細胞ですが、もちろん23対46本の染色体があります。
えっ?両親からもらうのなら46対92本では?いいえ、精子と卵子は受精した時に正しい数になるように、それぞれ11対22本の常染色体と1本の性染色体しかもっていません。これは減数分裂といって生殖細胞だけがもつ仕組みです。こうして精子と卵子がもつ染色体はペアを組み、受精卵は常染色体22対44本、性染色体1対2本をもつことになります。

受精卵の性別を決めるのも減数分裂の仕組みです

女性の性染色体はXXなので、減数分裂によって2つに分離されても、卵子の性染色体はどちらもXです。しかし、男性の性染色体はXYなので、精子はX性染色体とY性染色体の2種類になります。X性染色体をもつ精子が受精すれば女の子に、Y性染色体なら男の子になります。性別もまた、受精の瞬間に決まるわけですね。

受精卵は活発に細胞分裂を繰り返します

受精卵は次々と細胞分裂を繰り返します。このような細胞分裂を卵割(らんかつ)といい、受精から約5日後には胚盤胞となって子宮内膜へ着床します。妊娠はこの時点で成立し、さらに細胞の数を増やしながら、脳を作るグループ、心臓を作るグループというように、遺伝情報に基づいて役割を分担して胎児の体を作りあげていきます。
こうして、たったひとつの細胞、受精卵で始まった新しい命は、出生時には約3兆個の細胞をもつまでに発育、成長することになります。

兄弟がそれぞれ違う個性をもつ仕組みは?

「背が高いのはお父さんに似たのね」とか、「色白はお母さん似ね」などと言われるのは、遺伝形質といって、両親からもらい受けた遺伝情報による個性です。
精子と卵子それぞれの染色体の組み合わせは2の23乗、約8万通り(正しくは8,388,608)になります。さらに受精卵になる時には8万通り×8万通りもの組み合わせができることになります。
受精卵がどの組み合わせになるかは、まさに偶然のたまものです。このため、同じ親から生まれた兄弟姉妹であっても顔も違うし、体質も違って、それぞれの個性が生まれることになります。

個性が生まれる背景には「メンデルの法則」があります
優性遺伝と劣性遺伝について

遺伝というと、メンデルの法則を思い出す方も多いかと思います。年齢にもよりますが、多くは中学3年生の理科で「メンデルの法則」を学びます。メンデルの法則は簡単にいうと「優性遺伝の法則」です。
たとえば、背の高い父と背の低い母の場合、高身長(仮にA遺伝子と呼びます)は優性遺伝、低身長(仮にa遺伝子)は劣性遺伝です。
メンデルの法則にあてはめると、父の遺伝子がAA、母の遺伝子がaaであれば、子どもはAA、またはAaとなり、子どもはみんな高身長となります。父、母ともに遺伝子がAaであれば、組み合わせはAA、Aa、aaとなり、高身長の子どもも低身長の子どもも生まれる可能性があります。
身長以外にもいくつか紹介しましょう。耳垢は湿性が優性、乾性は劣性です。皮膚や髪の毛、目の色は濃い色が優性、薄い色は劣性です。くせ毛と直毛の場合はくせ毛が優性、直毛は劣性です。
つまり、優性、劣性は優れている、劣っているという意味ではなく、遺伝上、次世代への発現力が強いのが優性、弱いのが劣性なのです。

ご夫婦のどちらかが保因者のとき、不育症につながることがあります
隠れた染色体異常をもつ人を保因者といいます

遺伝の仕方には優性遺伝と劣性遺伝があります。病気などの遺伝形質も両親からもらい受けます。ある病気が遺伝するとして、Bがその病気になる優性の遺伝子、bは劣性の遺伝子とします。その病気が優性遺伝する場合、持っている遺伝子の型がBbの場合は病気として表に表れますが、bbの人は表れません。劣性遺伝の場合にはbbの人は病気が表に表れますが、Bbの人は表れません。
「染色体異常」には表に症状が出て病気と認識される場合と、表に症状の出ない、したがって病気ではない場合があります。病気ではない「隠れた染色体異常」を持つ人はたくさんいます。このような人を保因者といいます。

保因者かどうかは染色体の検査を受けて初めてわかります

ご夫婦のどちらかが保因者の場合、通常の生活には何も不都合はないのですが、「赤ちゃんが欲しい」ときに、不妊症や不育症、病気をもった赤ちゃんが生まれるリスクは、保因者ではないご夫婦より高くなる傾向があります。
ご本人たちには自覚症状はなく、まさかご自分に染色体異常があるとは想像もしていません。流産した胎児の染色体検査の結果、遺伝による染色体異常があるとわかった場合や、あるいは病気をもつ赤ちゃんの誕生を契機に、ご自分たちの染色体を検査して初めてわかります。

流産を繰り返す場合は遺伝相談を受けるといいでしょう

ご夫婦のどちらかが保因者の場合を夫婦染色体異常といいますが、とくに流産を繰り返す不育症の原因として重要です。残念ながら染色体異常そのものは治療することはできません。このため、次の妊娠が流産になる可能性があります。
不育症の場合、約5%のご夫婦に染色体異常が見つかります。流産を経験しつつも最終的には60%以上のご夫婦に赤ちゃんが授かるという報告もありますが、体外受精(顕微授精)の方法を用いて得た受精卵を検査し、異常のない受精卵を子宮に戻す方法もあります。受精卵の着床前診断といいます(PGD)。
専門的な知識をもつ医師に相談することで、最初に結論ありきではなく、夫婦染色体異常について正しく知るためにも、遺伝相談は役に立つのではないでしょうか。


次号のご案内
   

次号は、引き続き「遺伝相談」がテーマです。流産の原因や不育症と夫婦染色体異常について、もう少し詳しくご説明したいと思います。

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