一般不妊治療・体外受精・顕微授精 西山産婦人科不妊治療センター

院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

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2012年冬号

テーマご夫婦が仲良く治療を続けるために…PARTⅢ 「卵子のエイジング」 -エイジングと不妊症の関係について卵子を中心に考えてみましょう-

日本は春夏秋冬の四季がある素晴らしい国です。でも、今年は日本各地で最高気温を更新した猛暑が続いたせいでしょうか、秋の涼しさを感じることなく急な寒さに冬の到来を感じた方もみえたことでしょう。そんな季節の移ろいのなか、今年最後の冬号をお届けいたします。 今号では、妊娠が成立するために絶対に欠かせない卵子を中心にお話をしたいと思います。ぜひ知っていただきたいのが、女性の場合、エイジング(加齢)によって卵子の数が減ると同時に、卵子そのものも老化するという事です。女性の妊孕性(妊娠する力)には年齢の壁があることはこれまでにも何度かお話ししてきました。理由として、エイジングによる自然の摂理として卵巣機能が低下することと、卵子はとても特別な細胞であること等が関係しています。 卵子そして卵巣とは何なのか…を改めて知っていただくことで、不妊症の検査や治療法についての理解が深まることと思います。

卵子についての基礎知識

妊娠は卵子と精子が受精し、受精卵という新しい命の原型が誕生することから始まります。でも、卵子はどうやって受精能(受精する力)を得るのか、不妊症の検査や治療の過程でよく出会う卵胞と卵子は同じものなのかなど、疑問をもっておられる方のためにまず、卵子についての基本を整理してみましょう。

卵子は女性が体内にもっている生殖細胞です。

生殖細胞は受精卵を作るために必須の細胞のことで、配偶子ともいいます。女性の生殖細胞は卵子、男性の生殖細胞は精子です。女性の場合、卵子はお母さんのおなかの中にいる胎児期に卵巣の中に出現します。ただ、胎児期の卵子はとても未熟で受精する力はありません。卵子が受精能をもつのは、思春期を迎え、卵巣をはじめとする性腺の働きが活発になってからのことです。

原始卵胞って何でしょう?

卵子は初めて出現するのは胎生4週ごろで、原始生殖細胞といいます。原始生殖細胞はやがて卵祖細胞へと発育し、胎生16週になると卵祖細胞は一層の膜をもつ卵胞に包まれます。この段階を原始卵胞と呼び、ひとつの原始細胞には1個の卵祖細胞が入っています。原始卵胞の数は胎生20週には600~700万個にまで増加しますが、この頃をピークにその後は急速に減って、出生時には200万個、思春期には20~40万個に減少します。

卵子は思春期まで原始卵胞の中で卵巣に保存されます

胎児期にできた原始卵胞はそのままの状態で卵巣に保存されます。卵子も卵祖細胞のまま発育を休止しています。卵子と卵胞が発育を再開するのは思春期! いろいろなホルモンやさまざまな成熟因子の影響を受けて、原始卵胞は一次卵胞→二次卵胞(前胞状卵胞・胞状卵胞の2段階を踏みます)→成熟卵胞へ、卵祖細胞は卵母細胞→卵娘細胞→卵子細胞→成熟卵子へと発育します。以上のような経過を経て、性成熟期になると受精能のある卵子が卵巣から排卵されるようになるのです。

卵子と卵胞は一体です

卵子は卵巣の中にむき出しの状態で存在しているのではなく、前に触れたように卵胞に包まれています。卵子が卵胞から独立するのは排卵する時です。卵胞の皮が弾けるように破れると同時に卵子は外に出ます。飛び出した卵子はすぐに、卵管の先端部である卵管采にキャッチされて、卵管の中へ取り込まれます。原始卵胞から成熟卵胞へ、そして未成熟な卵子から成熟卵子へと育つ間、卵子と卵胞はいつも一体です。

卵胞の大きさは卵子成熟の目安になります

不妊症の検査や治療では、卵胞計測といって経腟超音波検査で卵胞の大きさを測ります。なぜかというと、卵胞の大きさは卵子がどのぐらい成熟したかを知る重要な目安になるからです。卵胞が20~22㎜になると排卵が近いと判断できます。同様に、成熟卵胞という言葉もよく使われます。この場合の成熟とは、卵胞内の卵子が受精できるレベルに達していることを指します。成熟卵胞イコール成熟卵子といってもよいでしょう。

卵子はどのように成熟するのでしょう?

前述したように、性成熟期の女性の卵巣にはたくさんの原始卵胞がありますが、中の卵子にはまだ排卵する力も精子と受精する力もありません。原始卵胞が一次卵胞から二次卵胞へ、最後は胞状卵胞へとなった段階で、月経周期に伴う性腺ホルモンの刺激を受けて成熟卵胞に育ち、4週間に1回、原則1個の卵子が排卵されます。卵子はどのように成熟するのかをもう少し詳しく整理してみましょう。

成熟卵子は主席卵胞から排卵します。

月経が終わり卵胞期になると、性腺ホルモンが直径2~5㎜の胞状卵胞を刺激して成熟を促します。この時、ホルモンの刺激を受ける卵胞はひとつではありません。複数の卵胞が育ちはじめ、そのうちもっとも大きく育った卵胞から1個の卵子が排卵されます。卵子を排卵する卵胞を「主席卵胞」といいますが、1個の卵子が排卵する陰には途中まで育った多くの卵胞があります。1個の排卵には十個前後の卵胞が縁の下の力持ちとして働いているようです。

卵子は減数分裂しながら成熟します。

私たちの体はいろいろな細胞でできていますが、卵子という生殖細胞には他の細胞にはない特別な性質があります。普通の細胞と違って減数分裂(染色体が半分/46から23になること)をしながら成熟するのです。精子も減数分裂をします。なぜなら、受精した時に両親それぞれから半分ずつ染色体をもらい、受精卵(染色体数46)という新しい命になるためです。

卵子の成熟には性腺ホルモンの働きが重要です。

原始卵胞が成熟して排卵するまでには、さまざまな性腺ホルモンが働きます。視床下部から分泌されるGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)や下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)・LH(黄体化ホルモン)などが卵子成熟の原動力になります。卵巣から分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)やアンドロゲンならびにプロゲステロンも大切な役目を果たします。steel因子やgrowth differentiation factor-9(GDF-9)など、難しい因子も関与しているといわれています。

卵巣が十分に働いていることが大切です。

卵巣は原始卵胞の保存庫であるとともに、卵子が発育するところです。卵子が成熟するには、性腺ホルモンの分泌量やバランスのとれた協同作業が欠かせません。とくに、視床下部や下垂体からの刺激に反応できる「卵巣の働き」がとても重要です。女性は一般的に35歳を境に卵巣の働きが低下しはじめます。 原因不明の早発閉経や40代で月経がなくなる方もいます。月経がなくなることを閉経といい、平均閉経年齢は50~51歳といわれています。閉経すると、卵巣の働きがほぼ停止すると同時に、原始卵胞は消滅してしまいます。 このように、卵巣の働きと女性のエイジングはとても関係が深いのですが、個人差が大きいのも事実です。

エイジングと不妊症の関係について。

女性の妊孕性(妊娠する力)には、残念なことに年齢という大きな壁があるということは、これまでにも何度かお話してきました。ここでは、エイジング(加齢)と不妊症の関係を、原始卵胞数の減少と卵子の老化をキーワードに考えていきたいと思います(クリニック便り2011年春号:テーマ 日本再生「女性の力」=女性の年齢と生殖力を考える=をぜひ、参考になさってください)。

卵子の数はエイジングとともに減少します。

前述したように、思春期の原始卵胞数は20~40万個です。思春期以降、排卵される卵子は500個ほどにすぎませんが、これも前述したように、排卵時には十個前後の卵胞が育ち、主席卵胞以外の卵胞は閉鎖します。500個の排卵卵子の陰で多くの卵子が失われていることになります。また、原始卵胞は性成熟期に入ってからも自然に減少し続けます。そして閉経を迎える時には、原始卵胞はすべて閉鎖卵胞となり、卵子はなくなってしまいます。このアポトーシス(細胞死)についての詳細なメカニズムはまだわかっていませんが、女性に与えられた自然の摂理かもしれません。
(参考文献:不妊診療のための卵子学;鈴木秋悦編・生殖医療ガイドブック2010)

エイジングに伴い、卵子も老化し受精しにくくなる心配があります。

出生時に冬眠状態で卵巣に保存された卵胞が再び発育を始めるのは、初潮を迎えてからです。15歳で排卵が起こるようになった女性の場合、原始卵胞に含まれる卵子はすでに15年間冬眠していたことになります。25歳では25年、40歳では40年もの長い間保存されていたことになります。このため、年齢が高くなってから排卵される卵子ほど、冬眠状態が長いため減数分裂がうまくいかず精子とうまく受精できなかったり、受精できてもダウン症児の一因となったりするのではないかといわれています。

体内環境や食習慣が影響を与える心配も…

エイジングによる卵巣機能の低下も、卵子の発育に直接影響するホルモンの環境を悪化させる心配があります。さらには、食習慣やアルコール、喫煙などによる過酸化酸素の過剰摂取が生殖細胞の活性に悪影響を与えるかもしれません。これらの個人レベルの体内環境は、エイジングによって積み重なっていきます。とくに喫煙に関しては、タバコに含まれる有毒物質が卵子の質を低下させるとも言われています。日頃の生活習慣でこころ当たりがあれば一度見直す機会にしてみてください。

卵巣予備能検査について知っておきましょう。

今、このお便りをお読みになっている貴女はおいくつでしょうか? 30代後半の方なら、急に不安になって胸を痛めたり深いため息をついているかもしれません。でも、先ほどお話ししたように個人差があります。また自然の摂理では説明できないこともあります。何よりも不妊症の検査と治療はどんどん進んでいます。今号で知っていただきたかったのは、赤ちゃんが欲しいご夫婦は1日も早く、不妊症専門の医師にご相談いただきたいということなのです。卵子さえあれば、進歩した治療が妊娠へと導く可能性は高いのです。また、以上の話から、ご自分にはどのぐらい原始卵胞が残っているのか? 卵子の老化が進んでいないか?と、心配になる方もおられるのではないでしょうか? まずは、自分自身の卵巣年齢を知ることが大切です。そこで、卵巣予備能検査について説明しておきましょう。

卵巣予備能検査としてAMH検査が注目されています

卵巣予備能検査は、卵巣年齢および卵巣に残る原始卵胞数を知るための検査です。卵巣予備能検査は従来、血液検査でFSH(卵胞刺激ホルモン)の値を調べるのが主流でしたが、数年前より、AMH(抗ミュラー管ホルモン)を測定する検査が注目されています。とくに不妊治療中の方は、AMHにより卵巣予備能の低下を早く正確に感知することで、治療に役立てることができます。また、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)ではAMHが高い値を示し、診断に有用です。

AMHの分泌量はエイジングとともに減少します

AMHは胎児期から産生・分泌されはじめ、性分化の過程で重要な役割を果たします。男性では精巣のセルトリ細胞、女性では卵巣の卵胞を構成する顆粒膜細胞で作られ、分泌量は思春期をピークにエイジングとともに減少し、更年期にはほとんど分泌されなくなります。

AMHの値から「卵巣年齢」を推定できます

前述したようにAMHは卵胞から分泌されるため値は発育卵胞の数と相関しています。したがって、血液中のAMH濃度を測定すると、原始卵胞がどのぐらい残っているか、卵巣年齢は何歳ぐらいかを推定できます。

AMH検査は月経周期に関係なく受けることができます

卵巣予備能を知る検査には、FSHやLH(黄体化ホルモン)の他にエストロゲン(卵胞ホルモン)、インヒビン(FSHの分泌を抑えるホルモン)がありますが、AMHは月経周期の影響を受けにくく、月経周期に関係なく受けることができます。

【AMH検査:当院の場合】

採卵できる卵胞数の予想に有用なため、体外受精・顕微授精を受ける患者様には必須の検査として受けていただいています。AMH値が高いと採卵数は多く、低いと採卵数は少なくなります。また、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクを予測することもできることから、患者様に合った排卵誘発方法を選ぶ助けになるからです。 体外受精・顕微授精を受けない方でも、とくに35歳以上の方で希望する方にはAMH検査をお勧めしたいと考えています。なお、AMH検査は現在、健康保険が適応されていないため、残念ながら費用は自己負担となっています。

【院長よりのメッセージ】
 卵子は宝もの! 高度生殖医療にチャレンジする勇気をもってください。

今号は内容がネガティブな方向に傾いてしまった感があります。しかし、ポジティブに不妊治療に取り組んでいただくためのアドバイスと受け取ってください。現在、エイジングによる良好卵子減少のハンディキャップを跳ね返す最適の治療法は、タイミング療法や人工授精よりも妊娠率の高い体外受精・顕微授精です。数少ない採卵卵子を受精能の高い成熟卵子へと育て、高度な操作によって受精を試み、良質の受精卵を創る技術も徐々に向上しています。胚移植の技術も進んできました。だからこそ、年齢の高い方ほど1か月、1か月を大切に、過ぎる時間に立ち向かう心構えをもっていただきたいのです。たった1匹の精子があれば顕微授精による妊娠の希望があるように、卵子がわずかでもあれば妊娠の可能性が生まれます。あなたの卵巣に眠る「卵子」は貴重な宝ものです。ぜひ、高度生殖医療への理解を深め、チャレンジしていただきたいと考えます。

おわりに

今回のテーマでは「ご夫婦が仲良く治療を続けるため‥」を取り上げ皆さんに妊娠と年齢についての最近の話題をお知らせさせていただきました。 次回では最近話題の「iPS細胞」について生殖に関係したことを少しお話したいと思っています。寒い季節です。体を冷やさないように外出時の保温にも気を配り暖かくしてお過ごしください。 不妊カウンセラー 西山純江

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