一般不妊治療・体外受精・顕微授精 西山産婦人科不妊治療センター

院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

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クリニック便り

2007年冬号

テーマ 不思議がいっぱい!受精と着床の仕組み Part.2 受精卵の発育過程と着床のメカニズム

妊娠への第一歩は、卵子と精子が受精し、受精卵となった新しい生命体が子宮内に着床することから始まります。
連載2回目の今回は、体外受精の進歩とともにわかってきた受精卵の発育の様子や着床のメカニズムについてお話しします。

体外受精が教えてくれること

受精は本来、私たちが見ることのできない体の内部、「卵管」で行われます。しかし、体外受精は文字通り、卵管の代わりに「シャーレ」という「体の外」に卵子と精子の受精の場を設ける方法です。つまり、体外受精は、これまで目の届かない体内で行われていた受精と受精卵の発育が、目に見える体外で行われ、観察できるようになったという意味で、画期的な治療法といえます。

体外受精は採卵→媒精→培養→胚移植というプロセスをたどります。体外受精ではこれらのプロセスを観察することで、正常な受精とは何か? 子宮内膜に着床しやすい良好胚はどういう状態か?などを判断することができるようになりました。同時に、受精能力の高い成熟卵子を育てる技術や、顕微授精による受精の技術、受精卵を育てる培養の技術なども大きく進歩しました。このように、進んだ技術は排卵誘発や人工授精などの一般不妊治療に反映されて、妊娠成功率を高める原動力にもなっています。

正常な受精とは

体外受精の場合、卵巣から取り出した卵子の周囲に精子を添加することを媒精といいます。ただし、媒精した卵子が全部受精卵になるとは限りません。また、精子が卵子の中に入っただけでは受精ではありません。顕微授精の場合は、顕微鏡で観察しながら卵子の細胞質の中に精子を1匹、注入します。これを卵細胞質内精子注入法(ICSI)といいますが、この段階では受精はまだ起こっていないわけです。

本当の受精は、精子が卵子の細胞質の中に入って、それぞれに前核を形成した状態をいいます。通常、媒精の翌日に卵子を顕微鏡で観察します。卵子由来の前核と精子由来の前核のふたつの前核が形成されているのが、正常に受精した受精卵です。前核のない卵子は残念ながら受精できなかった卵子です。前核が一つだったり、三つ以上の場合も正常な受精卵ではありません。

正常な受精卵は卵子由来の前核一つと精子由来の前核一つ、合わせて二つ見えます。

正常受精卵の写真
受精卵の発育

ふたつの前核はやがて一体化します(融合といいます)。融合によって初めて新しい生命体の芽が誕生したことになり、受精卵は細胞分裂を開始します。この細胞分裂を受精卵の分割といい、2分割卵、4分割卵、8分割卵という具合に分割を繰り返し、さらに桑実胚、胚盤胞へと発育していきます。

桑実胚(そうじつはい)と呼ばれるのは、形が桑の実に似ているからですが、最近は桑の実を見たことのない人も増えています。小さな房が密集しているブドウを思い浮かべてみるといいでしょう。

胚盤胞(はいばんほう)という名前も不思議です。受精卵は発育段階に応じて、受精卵→分割卵→桑実胚→胚盤胞と呼び方は変わりますが、いずれも「胚」(将来胎児となる芽)のことです。そして、子宮内膜に着床するまでに発育した胚のことを胚盤胞といいます。胚盤胞の内部には将来心臓や皮膚などさまざまな器官に分化して、赤ちゃんの体を構成する基となる細胞が含まれています。

着床のメカニズム

体内での自然受精の場合、受精卵は5〜7日間ぐらいで子宮に到達します。この間に受精卵は胚盤胞まで育ちます。子宮に届いた受精卵は、外側の透明帯が破れて、中の胚は子宮内膜に根を張るようにもぐりこみ、着床します。

このように受精卵の透明帯が破れることをハッチング(孵化)と呼びます。

卵子の透明帯が固い、厚い状態であれば透明帯が破れにくく、卵子は子宮内膜に根を張れず、着床が難しくなります。とくに、年齢の高い女性の場合にその傾向が強いとの指摘もあります。

数年前よりあらかじめ透明帯を人工的に破った上で子宮の中に戻す方法が考えられました。アシステッド・ハッチング(孵化補助)と呼ばれる方法です(詳しくは次号でお話します)。

さて、受精卵が子宮内膜に着床する過程を「接着」と呼びます。この過程にはさまざまな「接着分子」が働いていることがわかってきました。また、接着分子は受精卵だけでなく、受精卵を受け入れる子宮内膜でも働いていることがわかっています。さらに、受精の段階でも卵子、精子双方の接着分子が関与しています。つまり、受精から着床までには多彩な接着分子が関与しているわけです。

接着分子が働くメカニズムは非常に複雑で、現段階では全容は未解明ですが、細胞の表面にあるタンパク質のひとつであるインテグリンという接着分子が注目されています。この接着分子は、細胞同士が接着する際の情報伝達の役割を果たすことがわかっています。わかりやすくいうと、受精卵がもつインテグリンと子宮内膜に存在するインテグリンがお互いに情報を交換しあい、接着が進むともいえるわけです。

もう少しわかりやすく説明してみましょう。やわらかで栄養分豊かな土壌を子宮内膜とします。ここにふんわり種が落ちてきます。この種を受精卵とします。土に触れているだけでは種は土に根を張ることはできません。まず、種の固い表面(受精卵でいえば透明帯です)がやわらかくなり一部が破れ、種の中身が土に触れ、触手のように根を延ばさないといけません。種の表面にある接着分子と土の表面にある接着分子がお互いに「ここに根を張るよ」「OK。こちらも受け入れ態勢を整えるよ」と情報を交換しあうわけです。この過程で活躍する接着分子のひとつがインテグリンです。

今後、分子レベルでの研究の進歩とともに、さらに接着分子の役割解明が進むと期待されています。 たとえば、発育の良好な良好胚を子宮に戻してもなかなか妊娠できない場合、ある種の接着分子が欠けている可能性が考えられます。欠けている接着分子を補うことで、着床率、つまり妊娠率が高くなる可能性も期待できるわけです。

次号では、体外受精の進歩に伴い、さまざまに工夫されているテクニックの数々を紹介します。

あけましておめでとうございます。 今年も院長はじめスタッフ一同、患者様に喜んでいただける安全な安心医療を心がけ頑張りたいと思っています。よろしくお願い申し上げます。 昨年暮れに卵子がさらに鮮明に見える新しい顕微鏡を購入しました。スタッフもやる気いっぱいです。 成果をあげ患者様に喜んでいただけるよう更なる努力をみんなでしたいと思っています。
平成20年 子年 吉日

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